孫子の兵法とは、紀元前500年ごろの春秋戦国時代(現代の中国)の軍事思想家・孫武が考えたとされる“兵法”と“リーダーシップ”について書かれた本です。「孫子の兵法」という名から、戦争のための戦略の話かと思えば、ビジネスにも応用できる様々な学びがあるため現在まで経営者などに好んで読まれている本です。特に孫正義やビル・ゲイツの必読本とも言われています。また戦国時代の有名な武将・武田信玄の「風林火山」の元となった軍事的兵法書とも言われており様々な分野で使われている必読本です。そこで、現代のビジネスの場での例題などを織り交ぜて説明していきたいと思います。現代のビジネスシーンにも生きる知識があるので、最後まで読んでいってください。
始計篇
始計篇とは、主に自分たちから無駄な戦いは仕掛けないということです。なぜなら、戦争をするには多額のお金が必要になります。少ない可能性の中、戦争を仕掛け負けた場合、金銭的な損失だけでなく自軍の兵士まで削られてしまいます。そのため、戦争を起こすとすれば、よく分析しその被害・金額や勝つ可能性などを十分に分析するべきであり、無駄な戦争はしないという考えです。例えば、今Appleに対抗しようとして、Appleと同じような製品を作り、ライバルとして勝負をかけるのはかなり無理があります。Appleの資金力と後発の小さなベンチャー企業では開発、分析、実行に移す適切な人材、資金が明らかに不足しています。そのためこのような勝てる見込みのない分野での戦いは避け、市場の弱点を読み、勝負しても十分に勝てる見込みのある分野で戦うことが大事なのです。
作戦篇
作戦篇とは戦争を長引かせないということです、これはなぜかというと、戦争を長引かせればそれに応じて様々な費用・物資が追加で必要になってきます。そして当初予定していた予算を大幅にオーバーすることがあります。そして、長期化した結果、負けたとすると軍隊の疲弊はもちろん、軍備や物資、金銭的な損失が大きくなってしまいます。そのため、戦争は長期化するべでないという考えが作戦篇です。例えば、企業がおよそ10人と多額の資金を投入したビジネスで、長い間結果が出なかったとする。この場合、採算が取れなくてもそのまま続けてしまうと、先の見えない結果に社員の士気の低下、人材の無駄遣い、資金の無駄遣いなど、無駄がどんどん大きくなっていきます。そのため、勝てると思った分野では初めからある程度の資金と人材を投入し、もし結果が出なければ決められた期限で潔く撤退するのも大事だと言うことです。もちろんここの作戦篇では戦争を長引かせるなと言う考えなため、予め長く時間がかかり採算が取れるかどうか怪しいものには手を出すべきではないと言うことです。
謀攻篇
謀攻篇とは、戦わずして勝という考えです。確かに戦争をした上で相手に勝つと気持ちいいでしょう。ですが、戦わずして相手を降伏させることこそ最も難しく高等な方法です。例えば、武器も人員も物資も十分にあったとします。その上で戦争をして勝利を収めたとします。もちろんこれも勝ちですが、少なからず自分たちにも損失が起こります。武器が減ったり、人員が減ったりです。ここで戦争を起こさずに相手を降伏させることができた場合、自軍の消費はゼロです。そして次にすぐ戦争があった場合も完全に準備ができている状態で相手と戦えます。このように戦わず勝つということが最も重要な戦略なのです。ビジネスで相手を降伏させることはそうありませんが、例えばビジネスでは競合がたくさんいるフィールドで人材・資金を大量に投入するのはかなりもったいないです。そのため、競合が極めて少なく勝機が十分にあるフィールドで勝負をする方が圧倒的に有利です。レッドオーシャンを避け、ブルーオーシャンで勝負する方が得策なのです。
軍形篇
軍形篇とは防御を高め、勝利の形を作るという意味です。これは、自軍の守備陣形を整え、敵が攻め入ってくる隙を見せないということです。そして、敵に攻め入る隙が出てきたえらそこを叩くという戦略です。守りを固め、効果的に攻めるということは、ほぼこちらの思い通りに動くことができるということです。一方、守備陣形が崩れ、敵に攻め込まれるということは、予測不能な事態が起こる可能性が高まるということです。そうすると、戦術の意味がなくなり負ける可能性が出てきます。そのため、首尾陣形を整え待ち構えるということは重要なのです。ビジネスの場で言えば、あるプロジェクトをする際に、起こりうるミス、そのミスが起こらないようにするための様々な分析を行うことで、不測の事態が起こった際に慌てふためくということがありません。これが自軍の守備陣形を整えるということです。
兵勢篇
これは自軍の統率をとり、士気を高めるということです。なぜこれが大事かというと、戦争では何万もの兵士を戦略をもとに的確に動かすことで戦況を有利に進めることができます。ですが、その兵士の統率をとることができないと、戦況は不利になります。そこで、大きな軍を統率していたとしても、小さい軍を指揮しているかのような統率の取れた指揮をすることが戦況を有利に進める手法であるという考えです。このように、戦況によって変幻自在に形を変えることのできる統率のできる軍が必須ということです。ビジネスでは、大企業であればあるほど、トップなどの経営陣からの考え・戦略がボトムの社員たちまで行き届くのは難しいです。そして社員全てのモチベーションを一方向へ向けるのはかなり難しいです。そこで必要となってくるのが、社員への待遇・福利厚生、やりがいなのです。これらが満たされていれば、どんなに企業が大きくても社員たちは高い目的意識を持ち仕事に取り組めるのです。例えばApple, Google, Facebookなどは世界の中でも大きな企業です。ですが、優秀な社員たちが多く在籍していることが有名です。なぜかというと、自分たちが社会に大きく貢献しているという意識と、高い報酬、十分な福利厚生があるからです。このように、自軍の士気を高めるということは、的確な統率力をとる上では必須事項です。
虚実篇
これは攻撃が最大の防御という考えです。軍形篇では防御が大事な要素であり、攻撃より防御であるという考えだったかと思いますが、虚実篇では先手を打つことが何よりも重要だというのです。そしてまず虚と実についてですが、これらはその意味の通り、虚とは何もない状態のこと。実とは実態があったり中身が存在すること。そして、孫子は実を避けて虚を撃つと言っています。この意味は、相手の実態のあるところを避け、相手の隙をついて攻めるということです。相手がわざわざ準備しているところに攻め入るのではなく、相手の防御が足りていない場所を見極め、そこに攻め入るというのが最も的確で成功確率の高い攻め方なのです。これは、謀攻篇の考えと少し似ていますが、競合他社が大きく力を入れているところを避け、付け入る隙のある分野へ参入し、シェアを得ていくということです。例えば、Microsoftが低価格で大量のソフトウェアを売り捌いていた頃、Appleも同じ業界で勝負していましたが、AppleはMicrosoftと同じ商品開発を避け、ネットオタクや専門家に好まれる高スペックでデザインの美しいコンピュータをソフトウェアからハードウェアまでを自社で組み立て、販売することにしました。その結果、Microsoftとの競合を避け差別化され、新たなシャアが獲得できるのです。このように実を避け虚を撃つということが必要なのです。
軍争篇
これは先手を打ち自軍が優位な状況を作るということです。読んで字の如く、争いで軍を動かすために何が大事かということについて述べています。先手をつくということは、相手が準備する前に攻め入るということです。そうすることで相手より優位に立ち、戦況を思い通りにコントロールすることができます。用兵は敵の裏をかくことで戦況を有利に進めることができます。そして兵士は風のように素早く動き、林のように静かに進み、火が燃えるように一気に攻め、山のようにどっしり構える、そして影のように敵に知られず、雷のように激しく動くということが大切なのです。どこかで聞いたことがあると思った人もいるかもしれませんが、これは武田信玄が軍旗として書いていたという「風林火山」の元になった考えなのです。このように孫子の兵法は戦国時代には既に日本へ渡り、軍の大事な戦略の一つとなっていたのです。
九変篇
リスクの変化に合わせて上手に変化させるということです。また、一つのことに対して利と害の異なる側面から分析し、対策を考える必要があるとうことです。さらに、九変ということから、戦況に応じて戦術を九つに変幻自在に操ることが必要となってくるのです。例えば、テレビを作るために必要な液晶画面の部品を一つの国から仕入れていたとします。ですが、その国には政治的リスクがあり素材の供給がたまに途切れることがあります。もしその素材が手に入らないことで商品の生産に賞が出る可能性があるとすると、同じ部品を他の国からもし入れれれるように新たなルートを開拓する必要があります。これがリスクの変化に合わせて戦略を変えるということです。投資をする上でのポートフォリィオも同じような考えです。一点集中投資では、それ一つが下がっただけで自分の資産に大きな影響が出ます。そのためあらゆるリスクに対応するため複数の分野に投資するのです。
行軍篇
行軍篇とは、戦場では敵の事情を見通すということです。意味は、チームのメンバーとコミュニケーションを密にとり、戦場の状況を可視化するということです。戦場でのコミュニケーションの伝達ミスは大きなミスを起こしかねません。例えば、まだ自軍の準備が整っていない状況にも関わらず、チームの一部が攻撃を始めた場合、予期せぬタイミングでの交戦を行わなければなりません。準備ができていないのに中途半端なことをすると、今まで行っていた準備が全て水の泡となります。ビジネスでは、例えば企業が開発中の新しい技術は、基本的に発表の段階に合わせて計画し、実行しているため、途中で情報が漏れてしまうと、真偽不確かな情報が出回り、火消しのために、無駄な発表をしたり、発表時のインパクトが極端に減ったりします。この様なことが株価に大きな影響を及ぼすビジネスでは、企業の存続がかかっています。なので社内での情報、戦略、計画の共有は必須です。これが、行軍篇の主なポイントです。
地形篇
これは戦いをする上で「場所」というのはその勝敗に大きく影響を及ぼす。依って敵軍と自軍が交わる場所には注意を払い決めるべきであると言う考えです。例えば、「桶狭間の戦い」について解説すると、織田信長の軍勢は約3,000人対して今川義元の軍勢は約45,000人の軍勢でした。この10倍以上の軍に勝てた要因はずばり“戦地”の選択が要因です。なぜかと言うと、この戦いでは桶狭間と言われるように“谷”が戦場でした。今川軍が谷に侵入したところで織田軍が囲み、攻勢をかけ、一気に相手の軍事力を削った結果、軍が疲弊し退却するに至りました。これは織田信長が、頻繁に領地の選定と分析、そして自軍の統率を完璧にしていたために可能となった攻撃でした。このことかわかるように、地形篇では戦いを行う場合の場所選びが勝敗に大きな影響を与えるということです。地形に応じた戦術を展開し、勝利を掴み取る。そして自分に不利な場所は避け、有利な地で勝負するというのが大事です。
九地篇
これは9つの異なる地形における兵の心理状態とそれが戦場に及ぼす影響について書かれています。それぞれ「散地」「軽地」「争地」「交地」「衢地」「重地」「圮地」「囲地」「死地」の9つに分かれています。散地とは自国領内での闘い。これは自軍領地に大きな損害を出すから避けるべき。軽地は敵の領内であるが、深入りしていない状況。ここでは止まるべきではない、兵士は自軍とも敵軍とも言えない状況から心がどっちつかずの心理になる。争地はお互いに領地の外で、この場を占領することができれば非常に有利になり、自軍の士気も向上する。交地は領地が何方にも分かれており、資源や人材の補給に便利。ここは必ず抑えるべき。衢地(くち)とは道が四方に分かれており、交通の要となる。外交上の要所であるため、ここは抑えるべき。重地とは敵陣内に深く入り込んでおり、敵の城を後方に背負っている。ここは、非常に危険なためあらゆる想定が必要。圮地(こうち)とは森や湿地帯など、厳しい自然環境の場所。軍が疲弊するため、ここはできれば避けるべきである。囲地とは侵入するのが困難で、出るのも困難。敵に待ち伏せされた場合非常に不利であるためここも避けるべき。そして最後の死地とは生きるか死ぬかの重要な要であり、軍の士気とスピードが非常に大切。ここではすべての力を尽くし戦う必要がある。このように9個の場所に関しての懸案事項と兵士の心理状態がそれぞれあるので、難しい環境を避け、かつ場所と兵士の士気を考え戦いをするか撤退をするかの判断が非常に大切ということです。
火攻篇
火攻篇とはいかに最速に戦いを終えるかということに注視した戦略です。「風林火山」の火の意味をさらに詳しく解説しているものです。火攻めには5種類あり「5火の変」と呼ばれており、それぞれ1)人(人材)を焼き討ちにする。2)兵士のための食料庫を焼き払う。3)武器や輸送に必要な物資を焼き払う。4)移動に必要な道を焼き、交通を遮断する。5)財宝などのものの交換に必要なものを焼き払う。これらの5種類の方法により勝負を早く決定づけることができます。そして、物理的に敵にダメージを与えるのはもちろんのこと、火による心理的揺動で敵を撹乱するというダメージがあります。火を使うことで全てが無に帰るため、状況と敵の損害を考え、不必要には使うべきではないが、火による攻撃は非常に効果的で、大きな効果があるということです。例えば、ビジネスでは市場をよく分析し、一気に大量の資源(資金・人材)を投入し、一気に市場のシェアを獲得し、競合の追随を許さないということにつながります。テスラが電気自動車業界に参入し、圧倒的な集中的投資を行い、他社の自動車会社を大きな差をつけました。他の自動車会社はたくさんの種類の車を作っており、その中のプロジェクトの一つとして電気自動車へ投資・開発をしているところ、テスラは時代の流れと電気自動車の将来性を考え、一点集中し一気に資金と人材を使い市場のシェアを獲得していく。このような例が挙げられます。このように、場面とタイミングを読み一気に勝負をつけるのがこの火攻め篇の重要な点となっています。
用間篇
戦いは自軍と敵軍の力量、そして自軍に有利な状況を形成できるかが非常に重要で、結果に直結するということです。ここで言う的軍の力量の把握そして有利な状況を形成するとは、敵にスパイを送り。十分に敵の弱点、強みを分析した上で戦術を組むことで、ほぼ負けなしの戦術を作り相手を迎え撃つことができると言うことです。そしてスパイにも様々な種類があり、敵陣深くに潜入するもの、敵のスパイを自軍側に寝返らせる。敵に誤情報を流すなど、様々な方法のスパイが存在しています。これは現在のビジネスでもあるのではないでしょうか。例えば、それなりに重要な地位にいて、重要なプロジェクトのメンバーの一人だった社員がいきなり解雇される。このような場合、その社員には会社によくない思いをしています。そこで競合が声をかけ、情報を聞き出すなど実際にあるのではないでしょうか。もちろん捕まったりしているケースはありますが、公表されていないケースもあるのではないでしょうか。ビジネスで「情報」は非常に大事で、企業の業績を左右しかねないため、スパイの存在は企業に大きな利益・損害を与えます。このスパイの存在こそが、この用間篇で大事な要素です。
まとめ
今まで13篇にも及ぶ戦いを優位に進めたり、勝つために必要な要因などを主に解説してきましたが、孫子が真に伝えたかったことは、「基本的に最も優れた兵法とは、戦わずして相手を降伏させる」ということが最も重要だということです。争いが起こりそうであれば、まず最初はどうにか戦わずして勝つ方法を見つける。なぜなら、一度闘いになってしまえばどんなに小規模でも物資や人員が削られてしまう。依って無駄な争いは避け、勝利を手に入れる方法を探せという考えです。だが、もし戦いを避けれない場合は、十分に現状を分析し、確実に勝てる戦略・準備が整ってから畳みかけよということです。これはビジネスの場でも同じく、競合他社との無駄な争いは、資源と人材の消費にしかならず、なるべく無駄な争いは避け、それでも闘いから逃れられない場合にのみ、確実に勝てる方法を分析し、それを行動に移すということです。以上が孫子の兵法13篇の解説でした。